大介>
ゆきの話、わかるような気もするけど、完璧にわかっている訳でもないな。でも、そうかもしれないという感じはあるよ。
たとえばさ、犬って主人の状況を場所に関わりなく察知するじゃん。知ってる? 『世界を変える七つの実験』という本があって、ルパート・シェルドレイクが書いたんだけど、そのなかに飼い犬の実験が出てくるんだ。それがさ、犬を観察できるように家の各所にビデオカメラを設置するの。ビデオカメラの画面には必ず時計を置いておいて正確な時刻がわかるようにしておく。すると犬の行動と飼い主の行動が完全にリンクしていることがわかるんだって。つまり飼い主が会社から帰ろうとすると、その時刻に飼い犬が玄関に行ったりとかするんだってさ。まさかと思うだろう? 本当らしいよ。で、なぜ犬がそんなことわかるんだろうって、その理由がわからなかったけど、その多次元世界の話を聞いたら、関係あるかもと思った。
推測だから正しいかどうかわからないけど、犬は多次元の感覚を感じていて、その感覚が来るとそれに素直に反応する。人間にも来ているのかもしれないけど、三次元的、言語的には理解不能だから、ついそのサインを見逃すんだろうな。それでわからないつもりになっちゃう。違うかな? まあ、多次元を味わうことができないから、正しいかどうかはどうやったってわからないな。
たとえば、ここで僕がゆきのイメージ通りにバーで飲んでいる雰囲気になったら、それって多次元に入ったって言えるの? もし言えるならバーにいることにしてみようかな。
マスター、僕にはジム・ビームのロック、よろしく。おっ、このBGMはビル・エバンスだね。灰皿ちょうだい。
大介は内ポケットから青いパッケージのアメリカンスピリットを出す。一本取り出して100円ライターで火をつける。
おい、ちょっと、俺の台詞のなかに出てきた今の言葉なに? 俺はそんなこと言ってないよ。俺がそれ言ったら変じゃない。「大介は内ポケットから青いパッケージのアメリカンスピリットを出す。一本取り出して100円ライターで火をつける」
自分でこれ言いながら行動していたらかなーり変でしょう。そういうト書きが混入してくることが多次元なの? わからねぇなぁ。
どうも。
大介は出てきたグラスをクッと飲む。
また変なト書きが登場したね。俺は言ってないからね。まあいい。すごいね。ジム・ビームの香りや味までするよ。でもこれって所詮文字の上での出来事でしかないんじゃないの? 現実は三次元だから仕方ないのか。四次元の感覚も時間の記憶とともに現れるものだから、過去を記憶していないと四次元はどこにもないということね。つまり四次元が存在するのは記憶や感覚のなかのみということか。つまり五次元も存在するとしたら感覚や記憶にしか現れないのかな? またはイメージとか???
うーむ、やっぱり理解不能だ。
「インターステラー」に多次元の世界が描写されていたじゃない。あんな感じなのかな?